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『BLAME!』座談会
櫻井孝宏(霧亥役)✕瀬下寛之(監督)✕吉平“Tady”直弘(副監督)

プレスコ全体の基準となった霧亥の訥々とした喋り方

――映画化が決まった経緯から教えていただけますでしょうか。本作はもともと、『シドニアの騎士 第九惑星戦役』での劇中劇『BLAME!端末遺構都市』としてアニメ化されていました。

瀬下 そもそもの話ですが、最初は『BLAME!』をアニメ化するのは無理ではないかと思ったんです。弐瓶(勉)先生がそれまでの作品よりもずっとポップなものを目指された『シドニアの騎士』に比べて、『BLAME!』はストーリーがはるかに難解なんですね。ひとつ形にするのであれば、『シドニア』の劇中劇のような、いわばパロディとして成立させるほかなかったんです。

吉平 とはいえ、劇中劇をつくりだしたらこれがまた楽しくて(笑)。僕と監督であれもやろうこれもやろうとなって、いろいろ詰め込みましたよね。

瀬下 90秒に60カットくらい詰め込んだストーリーボードを描きました(笑)。そんなのめり込み感が良かったのか、内外の関係者やファンの方から「ぜひ映画化してほしい」という話が出てきて、結果的に劇中劇がパイロットフィルムになったんです。

吉平 『シドニア』で纈が、このあとどうなるかは「みんなの応援次第」と言っていましたが、まさに皆さんの応援のおかげですよね。

――櫻井さんは『端末遺構都市』からの霧亥を続投されています。

瀬下 最初から『BLAME!』を映像化するなら霧亥は櫻井さんにお願いしたいと思っていたんです。『シドニア』で岐神海苔夫を演じていただいていたので、その声とお芝居の魅力は十分わかっていましたし、霧亥のイメージにぴったりだと。もちろん、『シドニア』の流れで劇中劇もお願いすればスムーズだろうという合理的な判断もありましたが、僕は絶対に櫻井さんにお願いしたいという気持ちがありました。

櫻井 ありがとうございます。ただ、劇中劇の収録は異常に緊張したことを覚えています。1本の作品になっていればストーリーが積み上げられていきますし、キャラクターも掘り下げられますが、わずか1分半くらいの映像でしたから。

吉平 ただひたすらカッコよさを追求したイメージ映像といっても過言ではないですからね。

櫻井 その上、霧亥は溌剌としているわけでも生命力に溢れているわけでもなく、結構ルールの多いキャラクターだったので、どうアウトプットすればいいのかという難しさがあって。手探りでお芝居していくような感じでしたね。出来上がった映像がすさまじいクオリティだったので、ホッとしたというか、改めて映像の力というものを実感しました。

――劇場版のプレスコの感想はいかがでしたでしょうか?

櫻井 役者同士でディスカッションをしながら積み上げていくのが楽しかったですね。『シドニア』、『亜人』というポリゴンさんの作品でプレスコのスタイルを経験したメンバーが何人かいたので、その辺はスムーズでした。

瀬下 櫻井さんの間の取り方が絶妙だったんですよ。霧亥が喋るときって、セリフの冒頭に「……」がつくような間があったんです。それがプレスコ全体のひとつの基準になりました。

吉平 現場でも櫻井さんの間の取り方がいいから、もっと間を取ってもいいのではないかということで、セリフを倒置法に変えたり、句読点を増やしたりということがありましたね。そうすることで、霧亥が何百年かぶりに喋る感じがもっと出せるんじゃないかって。

櫻井 そういう演出やディレクションをいただいたので、だったらもっと声を出しづらい様子、言葉を探しながら喋る様子をありありと出してみようと切り替えましたね。

瀬下 久しぶりに人と喋る様子がまたツッコミどころがあって面白かったですね(笑)。あえて狙っていこうというわけではなかったのですが、櫻井さんがそのギリギリのラインに仕上げてくださって感動しました。

櫻井 人の話を聞かずに、「ネット端末遺伝子を……」ってずっと言っていますからね(笑)。

瀬下 みんなに「はぁ?」と怪訝な顔をされても、ごく真面目に尋ねています。ほかにも、「人間だ」って(笑)。

吉平 「どう見ても人間じゃないよ!」ってツッコミたくなりますよね(笑)。

過酷な状況の中で描かれる人間の息づかいと生命力

――収録現場には弐瓶先生もいらしたそうですが、先生からの意見などはあったのでしょうか?

瀬下 面白かったのが、弐瓶先生が「霧亥がちょっと喋りすぎた気がします」とおっしゃったことですね。

吉平 結構、多かったですよね。セリフを文章として喋ってしまうと霧亥じゃなくなるということなのですが、それで櫻井さんの喋るセリフがどんどん減っていくという。

櫻井 最初は普通の文章だったものが、単語2つくらいになることもありました。普通の文章といっても、ほとんどが1行未満の短さですよ(笑)。ただ、役作りの上では考え方やアプローチを変える大きなポイントになりました。

瀬下 文字ベースでは納得していましたし、櫻井さんが声を吹き込んでくれたことで霧亥が実在するかのように感じられるのですが、どうしても僕らが霧亥に無理矢理喋らせているような感覚になってしまって。無茶は承知で「削りましょう」と。

櫻井 確かに、長い文章のままだと、情感や情緒が出てきてしまって、霧亥の気持ちが見えてきてしまう感覚はありました。ちょっと説明っぽくなってしまうというか。

瀬下 霧亥の感情であったり、作品に漂う謎といったベールが剥がれてしまうような感じですよね。

櫻井 でも、完成した映像を拝見したときに、この口数の少なさだからこそ、霧亥の表情や動きにより深い意味合いが出てきたなと感じたんです。視線であったり、後ろ姿であったり、言葉にせずとも画が霧亥の感情を表してくれるような、そんな感覚になりました。

吉平 そう言っていただけるとスタッフも喜んでくれると思います。

瀬下 無表情なのに感情を出さなければいけないという、無理難題にこたえてくれましたからね。

――制作側としても役者としても、やはり霧亥は一筋縄ではいかないキャラクターだったわけですね。

吉平 櫻井さんのプレスコと一緒で、実際にやってみたらちょっと違ったということが多かったですね。人物を描く上での当たり前の行動が霧亥には似合わないというか。たとえば振り向くシーンにしても、180度完全に振り返らせると、それはもう霧亥らしくないだろうということになるんです。決して何も伝えようとしないキャラクターではないので、少ないセリフ、少ない動きでいかに語らせるかというのはありましたね。

櫻井 ある意味、こちらから探ってみよう、近寄ってみようと思わせてくれるキャラクターですよね。づるが霧亥をなんとか理解しようとするのと似ている気がしました。

――櫻井さんが好きなシーンを教えていただけますか?

櫻井 おやっさんと捨像が駆除系を引き付けるときの「引き寄せてからだ……」、「……へい」のやりとりですね。あの間がたまりませんでした。息を殺して、機を窺う様子がひしひしと伝わってきて。普通だったら、あんなに間を取りませんよね?

吉平 そうですね。やっぱり我慢できなくて、間を取らずに返事させてしまうと思います。

櫻井 「死に間」(無駄な間)になってしまう可能性だってあるはずなのに、全然それを感じさせないところがすごかったです。緊迫感がこちらにも伝わってきましたし、何よりおやっさんと捨造の信頼関係も垣間見えてグッときました。

瀬下 あの間はプレスコじゃないと探れなかったですね。アニメーターも優秀ですが、先に演技をつけてもらったことであの間は得られたのかなと。捨造の絞るような「へい」があってこそ成り立ったところもあります。

――では最後に、本作の見どころを教えていただけますでしょうか。

櫻井 ハードSFであり、途方もない世界を描いていますが、そこで生きてみたいと思わせられる不思議な吸引力があります。見ていて恐怖を感じながらもそう思えるのは、きっとその世界で暮らす人間たちのぬくもりや生命力が感じられるからなのだと思います。とにかく面白い作品ですので、劇場のスクリーンでスケール感のある映像と人間の息吹を感じてください。

吉平 本当にいろんな側面から楽しめる作品だと自負しています。霧亥の重力子放射線射出装置のような派手なアクションや弐瓶先生の真髄ともいえる巨大な構造物、そして過酷な状況の中で人間が運命にどう抗っていくかというドラマ。さまざまな側面を二重、三重に楽しんでいただけたら幸いです。

瀬下 『シドニア』のときから考えていたことですが、どんなに過酷な状況でも人間はご飯を食べるし、お風呂に入るし、恋愛をするんですよね。そういった弐瓶先生が大事にしてきたものを僕らも大事に描こうと思いました。ハードSFというパッケージですが、危機に陥った村があり、子どもたちがあがいているところに流れ者がやってくるという、西部劇のような時代を超えた王道のストーリーを目指しています。おそらく多くの方に共感していただけるのではないでしょうか。

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